2014年11月22日土曜日
オッサン遭遇記
いつまで若い気でいやがるんだ、と自家ツッコミを入れつつも、
20代から大きく環境が変わったとは言い切れないので、いまだに年をとっていない錯覚を起こしている。
昨晩、スマホをいじりながら夜道を歩いていたら、
「あ、あのー。あのー。気をつけてかえってくださいね」
やや遠慮がちなオッサンの声。
あんだ?ここでハイとか言ったら、「よければ飲みにいきましょう」ってなんじゃねえの?
と無視を決め込んだ。
「気をつけてかえってくださいね」
再び。
しつこいオヤジだなこの野郎、と顔を上げたら、二人連れの巡査の、年上の方が、
精一杯の柔らか表情を浮かべてこっちを見ている。
あ、ごめん、スマホのせいだね。
「はい、ありがとうございます」
お仕事だったねごめんねごめんね、後輩の手前もあるよね、と思いながら、
スマホをポッケにさっさとしまって歩き去った。
別に自意識過剰でも何でもなくて、過去に自宅の近所で、
何度もろくでもないオッサンに遭遇している。
ごく自然な警戒態勢。
一番マシなのは、車がキッと横でとまって「お姉さん、お姉さん。飲みにいかない?」という普通のナンパ。
おまえそれいまどき引っかかるやついると思うんかい、と思いながら、
「いえ、結構です」と速足で逃げた。
結構本気で怖かったのが二つ。いや、三つか。
一つめ。時刻は夕方。
自宅マンションの敷地内で、エレベータホールから大通りに向かう道筋。
煙草を持った、明らかに酔ったオッサンが、こちらに向かって歩いてくる。
このご時世に歩き煙草はなあ、と目を背けたら、
「姉ちゃん、やろうよ、やろうよ」
と肩を組んできた。
煙草の火が怖かったのと、その急激な距離の縮め方に驚いて、
「やりません」と愚直な返答をし、身をすくめて逃げた。
もう一つ。
稽古後に、どうしても吉野家の牛丼、並・卵をいただきたくなって、
終電近くに、一つ前の駅で降りて、がっついた。
女が深夜に一人で吉野家に入るなんて、あたしも立派な独女になったものだなあ、
と満腹しながら感慨深く表に出ると、
壊れた電波を放っているオヤジが二人、コンビニ前の高校生さながら、
煙草をふかして談笑している。
また煙草。
「しょうがねえなあ、ここいらのオヤジは」
そう思って帰路に向かうと、背後から「お姉さん、お姉さん」と呼び声が。
振り返ると、オヤジの一人が、煙草を持って追いかけてくる。
「遊ぼうよ。ねえ、遊ぼうよ」
「やめてください」走って逃げる。走ってついてくる。
「おねえさーん。おねえさーーーん」
うっかり路地に入る。
「おねえさーーーーん、待ってよーーーーーー」
いやこいつ完全にぶっ壊れてる。そう遠くない距離でちらつく煙草の火種。
路地を抜けたら、頭のゆるそうな若い男女グループが、ゲラゲラ笑いながら歩いてくる。
しめた、と思い、そいつらの側にこっそり寄る。
オヤジも火種も消えた。
帰りは、大通りを選んで帰った。
そしてもう一つ。
何年か前、自分の作品をつくっていた頃。
稽古がうまくいかなくて、なんだかなあ、とモヤモヤしながらの帰路。
終電は一つ前の駅でとまる。
地下のホームから地上にあがると、雨が降っていた。
傘を買うことを考えたけど、勢いで自罰行為に浸りたい気分になって、
リュックを抱えて濡れながら帰ることにした。
少し進むと、背後から傘が。
「風邪ひきますよ」
缶ビールを持った、30代くらいのあんちゃん。
「俺、同じ方向なんで。送りますよ」
コンビニの店長をやっているとのこと。
酔っているのだろう、えらく饒舌。
「煙草、吸いませんか」
駐輪場の軒下で雨宿りして、煙草を吸うあんちゃん。
「・・・すみません、1本いいですか・・・」
あんちゃんは、ずぶ濡れのおいらに、煙草をめぐんでくれた。
結局、話しながら、3本ほどいただいた。
傘をさして帰る。
あんちゃんは墨田区のどこだか(忘れた)のサンクスの店長で、
三店舗のエリアマネージャー。
開店直後は相当しんどく、24時間働き続けるのはザラだったらしい。
かつては、司法書士を目指していたという。
でも、なかなかうからなかった。彼女とも別れた。
いま、生活のために、いったん勉強は中断して、コンビニの店長をやっているらしい。
でも、そんな自分に納得いってない。
「コンビニの店長なんて、ってみんな下に思うでしょう」
いや、上とか下とか、そういうふうに思いませんよ。
どの仕事もしんどいですよ。
などなど。
「今日は売上が上がったんです。それでご褒美の缶ビール。これくらい自分に許そうと思って」
あんちゃんのボヤキは止まらなかった。
そして私の自宅マンションまで来た。駐輪場でいったん傘をとじる。
ありがとうございます、助かりました、と帰ろうとしたら、
「ひとつ、お願いがあるんですけど、いいですか」
煙草3本と、傘に入れてもらった恩がよぎる。でも何かがアラートを出す。
えっと、どんなことでしょう。
「おっぱい、さわらせてもらっていいですか」
きたー。
受けた恩がぐるぐるとまわり、軽率な私は、いいですよ、と答えた。
数秒後、猛ダッシュで逃げた。
ありがとうございました、本当にありがとうございました、おやすみなさーい!!!
私にとって、江東区はまだそんなところです。
もうトシもトシだし、そんなことはないだろうとは思いつつも、
たまに大間違いするアル中もいるだろうから、
いまだに身構えてます。
まーでも、平和な話やね。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
1 件のコメント:
私は男性で、これまで生まれてから自分を性的な対象と言うか性的な目線で見られたことはありませんので(気付かなかっただけかも?)、どれだけ世の女性が日常で危険な目にさらされているのか理解できました。くれぐれも気を付けてください。
コメントを投稿