2009年4月12日日曜日

おやすみ。

幕が降りてゆく。
そんな印象を受けた。


中高時代の同級生が、ガンで亡くなった。
告別式で新横浜へ。


受付はすべて同級生。
イベントの度に顔を合わせる、馴染みの顔。
ちえちゃんは、その中の一人だった。


大きな目。
静かな物腰。
決して派手ではないけれど、凜としたものがある佇まい。


喪主のお父様が「宝物でした」と声を詰まらせたとき、涼やかな色合いの可愛らしい勾玉が、パンと弾け飛んだような気がした。


破片は宙に消えた。


溢れる弔問客。
一部屋に納まらず、隣室に通される。
見知った顔がいくつか。
たくさんの年若い男女。
彼女の通ってきた道程が凝縮されて現れる。
きょうは旅立ちの日。


死が繋ぎ直す、人の輪。
これから先は、彼女のいない世界になる。
それを受け入れるために、ほどけかかっていた手をまた繋ぎ直す。
そして彼女と繋いでいた手をはなし、別れを告げ、受け入れる。
柔らかなセレモニー。


淡い香りの白菊を棺におさめる。
若すぎる。
棺におさまるのは、もっとシワだらけの、生きてきた年輪が深く刻まれた人物でなくてはならない。
なめらかな肌、柔らかい唇、黒々とした眉…そういったものがおさまるようには棺は作られていない。


出棺を待つ。
終わった。
終わったのだ。
これはエピローグなのだ。
私たちは彼女を語るためのコマにすぎない。
今日の彼女は紛れもない主役。
人生の着地点を、生者がその網で受け、空に浮かべる。そのための。
私たちの生は続く。


終わりが目の前を通り過ぎて行く。
だけど、終わらせたくなかった私は、ささやかな抵抗としてメッセージカードにこう書いた。


私はもう少しだけ起きてるよ。
いずれまた会おう。
そしてそのときは互いがわかるよう、サインを送りあおう。
とりあえずは疲れただろうから、ゆっくりおやすみ。


4月9日午前4時4分。
田崎千絵、眠る。

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