
大学に8年もいたので、そりゃもういろんな人に会った。
中には、学生として出会うには珍しい人も。
その中の一人が、風俗王のA氏だった。
なぜ風俗王かというと、いわゆる女衒、女を風俗(当時は主にソープランド)に斡旋して、
その上がりで飯を食うというのを、個人で、完全にビジネスとして行っていたから。
実際は王というほどではなくとも、かなり羽振りよくやっていたらしい。
そのA氏が、とあるきっかけから芸能界に興味を持ち、芸能事務所を始めるという。
それにあたって、養成所をつくりたいからと、
当時私がお世話になっていた演出家の兄貴に話が来た。
兄貴は話が進むにつれ、金銭的な面で決裂し、
世間知らずの私はそのまま留め置かれた。
何度も事務所に打合せに行った。
金のチェーンネックレス、扇子、派手な色のスーツ(緑、空色、ピンクなど)、煙草の長い吸い口。
癖のあるしゃべり方。
とても個性的な人だった。
昔はオレも体張ってたんだけどね、抱きたくもない女抱くのも疲れるから、と。
大卒でやんのも珍しがられてね、重宝されたよ。辞めるときもちゃんとスジ通したし。
呼ばれるままに、事務所へ何度も打合せに行った。
とぶ、ケツをまくる、ヤキを入れるなどの用語を知ったのもこの人から。
あいつすぐケツまくるから、とばさないようきっちりヤキ入れないと。みたいな。
金になる女にはマメで優しく?ても、男にはがんがんヤキ入れるタイプでした。
消えた人たくさん。
養成所は約1年続いて、ひところは十人強くらいいて、
レッスン生のイベントもやったりしたのだけど、
私がさすがに大学の勉強に専念しなくてはならなくなったのと、
ある方向性にどうしても納得できなかったので、
結局は辞めた。
その方向性、というのが、
タレントもしくはアイドルでデビューできない奴は、
レッスン代をとるだけとって、最終的に(売れそうなやつは)エロで売る、というものだ。
A氏ではなく、その手の、また別の(あまり評判のよろしくない)事務所が絡んでいたせいもある。
先週までレッスンしていた女の子Sが、
翌週にはハダカでその手の雑誌に掲載されていた。
マネージャーが(ヤキ入れられすぎて)とんだので、代理で行った撮影の現場は、
その手の雑誌のものだった。
未成年の女の子Mが衣裳として渡されたのはブルマと体操着。
衣裳替えですと渡されたのは白いビキニ。
タオル地のガウンを着て、戸惑った表情で現れた彼女が忘れられない。
ネット配信用に動画撮影しますから、と受けた指示は、ラジオ体操できる?やってみて、というもの。
飛んだり体を反らしたりするのを、胸と股間を中心に、なめまわすようにカメラが這う。
見てられなくなって、私は部屋をそっと出た。
帰り道、雨が降っていた。2人で1つの傘に入り、暗い一本道をとぼとぼと歩く。
「Mさあ、こんなことやりたかったわけ?」思わず問う。
「いえ。正直、聞いてなくて。びっくりしました」
ああ、私、無理だ。
彼女の呆然とした横顔を見て思った。
エロは私も好きだし、面白いと思うけど、
その対象になるのは、常に人間の女であるわけで。
一定数の人間が、その「体を張った仕事」に従事しているわけで。
そこにどうしても同性としてジレンマを感じてしまう。
うるせえデブスババア、てめえが四の五の言うことじゃねえよ引っ込んでろ、という声を浴びたとしても。
気になってしまう。
そういった引っかかりが出来たことも含め、A氏と密に過ごせた時間は、
かなり貴重な体験だったと思う十数年後の私でした。
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