2012年6月7日木曜日

逃げきれなかった

「菊池直子だから結婚できません」
この言葉が、どういう会話の流れで出されたのか。


菊池は男を愛していたのだろうと思う。
信じられたのだろうと思う。
そして男も菊池を愛していたのだろうと思う。
真実は、ときにすべてを粉砕する力を持つ。


追いつめられたのか。

「できません」
「なんで」
「無理です」
「どうして」
「菊池直子だから」
「え?」
「オウムの。知ってるでしょ。指名手配の」


結婚しようといわれて、菊池はきっととても幸せだったと同時に、
葛藤が最大に膨れ上がったに違いない。
もう嘘をつけない自分がいたのかもしれない。
疲れて、すべて預けたくなったのかもしれない。

人間はいつでもドラマを生む。
人間そのものが、ドラマの装置なのだ。ドラマは人間でできている。


菊池直子の指名手配写真は、若くて、ふっくらとして、にっこりとほほ笑んでいる。
愛らしい、若い娘。
交番や駅で見るたびに、この子はいまどこで何をしてるんだろう、と想像をめぐらせていた。


事件に関わっていなかったら、どんな人生を送っていたのだろう。



と、自分の人生を棚に上げ、人の人生を気にしているのだから世話ない。

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